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アニナルおまけの『指マドラーヤマト』で二次創作

ナルトの修行中、九尾のチャクラを抑えるために動員しているヤマトことテンゾウは、数日も経つとむっつりとしてあまり俺と口を利かなくなった。

「テンゾウ。ご苦労さん。今日は先輩がおごっちゃおうかなぁー」

「……」

「遠慮しなくていいぞー。ん〜? んふふ〜」

ご機嫌取りがあからさますぎたのか。ヤマトがじろりとこちらに眼球だけを動かす。

「結構です。先約がありますから」

「えー。あれぇ?」

ヤマトにしては珍しい反抗だ。

あわよくば、飯の後にヤマトも食っちゃおうなんて考えていたんだが、アイツもかなり俺に対する不満が溜まっていたようだ。

誘いを断られた俺はもちろんヤマトの後をつけた。若い頃なら「お、俺の誘いを断るなんて信じられない! まるで飼い犬に手を噛まれた気分だーね!」なんて余計な一言までつけて地味にキレたテンゾウにあれやこれやイタされちゃったりしたもんだが(あの頃は理由をつけてはすぐに激しい運動をしたもんだ)、俺も人間が丸くなったのかねえ。

鬱な表情で気だるそうに歩いていたヤマトは、偶然道で会ったアスマに挨拶をして立ち話をしていた。しかも何を思ったのか、他人を誘うなんて非常ーに珍しいことに、あいつの方からアスマを酒に誘った。

……先約があるだなんて、やっぱり嘘か。

そしてその後は俺もびっくりの乱れようだ(別に変な意味ではない)。

酒豪の紅とつきあっているためその手の感覚が一般人とはかけ離れているアスマに対抗するように呑むなんて、本当にアイツどうしてしまったのか。

酔いつぶれて見事に人相も変わってしまったヤマトは、

「ったく、あの人ってどぉおーしてあんなに人を使うのが上手いんですかねぇぇ」

とくだを巻き始めた。

俺は彼らから離れた席でこっそり聞き耳を立てながら、「お前限定でな…」と心のうちでつぶやいた。

まぁ、自慢ではないが、口は上手い方だとは思う。だが、大概何でも言うこと聞いて使われてくれるのは、お前ぐらいしかいないのよ? 俺。

アスマは本当に律儀な男で、壊れたレコードのように繰り返されるテンゾウの愚痴に(生返事ながらも)つきあってやっているだけでなく、店の選択にもそつがない。紅に配慮して、女がつくような酒場には出入りしないのだアイツは。安酒なんか置いてない類の落ち着いて静かな店内には、身なりのよさそうな客がそれなりに入っている。

その中でヤマトの壊れ具合は、正直目を引く。

「いーつの間にか肉体労働はボクの担当だしぃーひぃっはっはーぃ」

……あの下品な物言いは本当に俺のテンゾウか?

確かに、タフなところは頼りにしているが。

『肉体労働』という単語にどきっとする。

変なこと想像しちゃった。

てゆうか、その指ヤラシイからやめろよ…。不覚にもケツが疼きそうになるだろ。

俺は一人こっそり物陰から恋人の様子を窺っている己にため息をついた。

ヤマトは、投げやりな態度で木遁仕様の指マドラーを使ってグラスの中をかき回したり、酔ってくねくね体を動かしている。

こうなってくると妙に気になってくるのがヤツの『ボク』という一人称だ。

おい。

やめろよ。

狙われるからさ。

彼らふたりの背後のテーブルで、羽振りのよさそうなおっさん達が「あの小さい方、なかなかいいんじゃないか」なんて会話をしているのを拾ってしまっては、気が気ではない。

別にヤマトは小さくない。アスマがごついだけだ。

くそう。熊のせいで、とんだ視覚効果だ。

こっちも酒がそれなりに入ってきて、イライラのあまりドス黒いチャクラが漏れてしまいそうだ。

完全に壊れているテンゾウは気づいていないが、アスマは俺がいることに気がついている。

千鳥足のくせにアスマをカラオケ居酒屋まで引きずっていった馬鹿力のヤマトは、調子っ外れに一曲野生の歌を歌っただけで眠りこけてしまった。

「もう付き合いきれねぇ。あとは任せるわ。じゃあな」

「こいつが迷惑かけちゃって、ごめーんね。アスマ」

俺はよたつきながらヤマトを背負って家まで運び、印を組んで妙齢の女性になってヤツの布団にもぐりこんだ。

さて。

明日の朝が楽しみだ。

俺にどう謝ってくれるか、見物じゃないの。




* * * * *



『指マドラーヤマト』続き

酒が入った眠りっていうのは確かに質が悪い。俺は夜中に二度ほど目を覚まし、その度にうふうふと笑いを噛み殺していた。

女体化していつもより小さくなった体をヤマトの方に摺り寄せる。

今は熟睡しているヤマトが、起き抜けに隣で寝ている見知らぬ女を見て慌てふためいたり冷や汗を流す様を想像するとおかしくてしょうがない。

だが、今日に限って、朝が来てもヤマトはなかなか目を覚まさなかった。

「…おーい。テンゾウ君?」

つついてみたが、反応は薄い。

気をそがれた俺は寝台のヤマトの脇で胡坐をかき、ぼんやりとカーテンの向こうの朝日を肌に感じていた。

「……」

「……」

「!」

朝っぱらから大きな目だね、テンゾウ。…ていうか、何か恐いよ?

気配もなく起き上がっていたヤマトが俺の方を真剣な目でじっと見ていて、ニコリともせずに詰問してきた。

「どちら様ですか。先輩とどういう関係なんです?」

……あー。こうくるとは思わなかったな。

ヤマトが我が物顔にしょっちゅう出入りしているとはいえ、確かにここは俺の家だ。

寝台の上で、裸の女と上忍服姿の男がふたり。

しかし、何やら艶事とは程遠い雰囲気だ。

俺はか細い声を出してみた。

「昨夜……」

「昨夜? 昨夜、何です?」

ヤマトは当然含まれた言葉の裏に動揺することもなく、むしろ強い口調で確かめるように訊いてくる。

じっと見つめてくる目もさっきから変わらず真剣だ。

……何だか、とても、やりにくいな。

面倒くさくなって、もうこのまま変化を解いてしまおうかと思っていたら、真剣な顔をしたヤマトに肩をつかまれた。

「まさか、僕、あなたに失礼なことは何もしていませんよね?」

……おい。

そういう責任逃れをしようとするかお前。

俺は、というか、お前の横で寝ていたこの女は裸なんだぞ。

むき出しの肩に気安く触るんじゃない。というより、胸も下の毛も全部見えてるだろうお前。

自分で裸の女になっておいて、むかむかとちょうど面白くない気分になってきた頃。

「僕には、とても嫉妬深い恋人がいるんですけど…」

ん?

嫉妬深い?

お、俺か? それって俺のことか。

「だから、この状況は、見られたら非常ーに、まずいんですが」

くっ、とヤマトの口元が笑う。

「でも」

何を言い出す気だ。

「ばれなければ、いいですよね」

「え?」

俺は、ごくり、と唾を飲み込んだ。

うそ。

「で、昨夜、何があったんでしたっけ?」

有無を言わさないような力で抱きしめられる。

耳元でくすぐったいほどの低音が響いた。

「カカシ先輩?」

「こいつ!」

あはははと軽快な声で笑うテンゾウと取っ組み合ってばたばた転がりあったのは、何年ぶりかね、これ。

「あんな顔するぐらいなら、何であんな悪質な悪戯しかけたりするんでしょうかねえ先輩は」

なんて余裕の顔で俺をからかっていたヤマトも、実は夜中に女の俺を発見した時は息が止まるかと思ったそうだ。

嫉妬に狂って髪振り乱した俺が(失礼だよね)いつ現れるか戦々恐々としながら解術して、俺の悪戯だとわかった時には安堵のあまりへなへなとへたり込んだとか何とか(大げさな)。

まぁ、安心した分、怒りは解術されたにも関わらず、裸でぐーすか寝こけていた俺に向けられたわけらしいが…。

「まぁ、あれよ。あんまりアスマとか他のヤツに甘えないで、不満があったら俺に直接言ってよ」

「だって、僕よりナルトの方を気遣ってる先輩にいい顔するのが癪だったものですから」

あれ。

もしかしてまた何か思い出して不機嫌になってるんじゃないのかねこいつ。

「テンゾウ〜。機嫌直してくれよ〜」

何だかやっぱり、昔とは若干関係が変わってきているような気がするよなぁ。

男に戻った俺は、ヤマトの背中に張り付いて許しを請うた。




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