木遁の贄3




チャクラ切れで意識のない俺は、テンゾウの手によって寝台に横たえられても、まったく危機感を感じることなくすーすーと眠っていた。

だって、腐ってもそういう戒律に厳しい木ノ葉の里内だーよ? 死にかけて任務後に倒れている先輩(…これまた俺のことだ)をどうこうするなんて…つまり具体的に言うと、触手でケツ穴いじったりあれこれするなんて、もうそれ忍びとしてありえないから! 人非人だから!

顔中にやわらかい感触がふってきたから気持ちいいなーなんて思っていたら、ふわりと体が浮かんだような気がした。

でも、木遁や例の黒いじっとりした触手で吊られているのとは違う、暖かくぎゅっと包み込むような感触。腰と、後頭部を大きな掌で抱えられて、何だか暖かくて大きい気持ちのいいものに抱きしめられている。

「……きです…好きです、先輩…」

俺より熱い体温と、ぎゅうぎゅう圧迫するような抱擁が気持ちよかった。だから、俺はだらりと力なく垂れ下がっていた腕に力を入れて、相手の背にまわした。思うように力が入らず、そえるだけのような動きだったのに、相手の体が強張った。

「……。…テンゾウ?」

テンゾウの声が聞こえたような気がしたから、そう呟いたら、すごい力で寝台に押しつけられた。

すぐ近くで感情を押し殺したような声が聞こえた。

そして、さっきはくすぐったいように優しく、気持ちよくしてくれたやわらかいものが、一気に熱を持って俺の息を奪いにきた。

「…ふっ…う…ぅっ」

何が起こったのかわからなくて、息苦しくてそれから逃れようとしたら、頭を押さえられて、無理やり奪われ続けた。何度も何度も、それこそ、何度も。

そこまでされたらさすがの俺も意識を取り戻して、ぼんやりと目を開けようとしたら、目の前に大きな掌が見えた。その手がさらに上に伸びて、額のあたりの俺の髪を後ろに流した瞬間。

首筋を吸われていた。強い力で。

「……っは、何!?」

悲鳴をあげて、がくんと体を反らしたら、強引な腕が俺の腰をつかんで寝台に再び押しつけた。

それだけじゃない。俺が逃げられないように、上から体重をかけて圧し掛かっている体がある。視界の端に見慣れた濃い栗色の髪が見えた。

「……テンゾウ?」

テンゾウは返事をせずに、俺の方を流し見た。俺の抵抗で少しだけ体を離していたテンゾウが、再び首筋に齧りついた。

そして俺に何の断りもなく、暖かい手をアンダーの下に潜り込ませた。

「……え? なっ…!」

乳首で感じる男は少ないと聞いた時、俺は心底驚いたものだった。暗部時代に初めてテンゾウとした時だって、俺はここを舐められたり甘噛みされたりしながら、後口に銜え込んだテンゾウをきゅうきゅうと悲鳴をあげて締めつけた。

だからこんな風に優しい指で擦られたら、呼吸が止まりそうになる。

自分でも恥ずかしくなるような、甘い息が漏れてしまう。体中が痺れて、腰が熱くなる。もっとその指が欲しくなる。指だけじゃなくて、舌も、声も、ナニも。何もかもが、欲しくなる。

「テンゾ…テンゾウ…」

テンゾウの背中に縋りついて啼いたら、強い力で抱きしめられた。

「可愛い…先輩、可愛い」

後輩の癖に、聞き捨てならない言葉を繰り返していたけど、俺はその腕に抵抗しなかった。

触手なんかとは全く違う温かみのあるテンゾウの体が、欲しくて欲しくて、すごく気持ちが良かったから。

だからくちづけを受けながら、テンゾウの指がアンダーを捲り上げて、そして俺の躯を露わにしようとしているのを気づいていながらも許した。

みぞおちにテンゾウの息がかかって、そしてさらに敏感な部分に熱い舌先が上ってくるのを期待した。

抱かれるのを待つ俺の躯が、気持ちよさでがたがたと震えた。

捲り上げられて空気に触れた肌が熱い。

しかし、いくら待っても、テンゾウの唇は俺の躯の上に落ちてこなかった。

「あ、あれ?」

「……先輩。これ、なんですか」

「え?」

とろんとしていた瞳をぱちりと開けてテンゾウを見ると、何だかとても憂鬱そうな顔をしていた。

こいつの年齢不相応な、辛気臭い顔はいつものことなのだけど、今日はそれだけじゃなくて目が据わっているような……。詰問口調だし、闇の中で光る目が恐い。

「え? え? 『これ』って、何?」

俺はテンゾウに上に乗っかられて、そして胸元までアンダーをずり上げられている体勢のまま首を傾げた。

「……いつの間に、ボク以外の男を咥えこんだんですか。先輩」

呻く声には苦味が混じっていた。

でも、おいおい、ちょっと待て。そいつは俺も初耳だ。

「え…。俺、誰のも咥えてなーんてないよ? 上も下も」

何か答え方を間違ったのか、一瞬テンゾウが眉をひそめて心底不快そうな顔をした。

言い方が軽かったし、上も下もっていうのは、ちょっと下品だったか。そういえばテンゾウはそっち方面かなり品行正方で、どちらかといえば古風な貞操観念を持っている男だった。……そのわりには今の俺に対する仕打ちはちょっとひどいんだけれども。

とにかく、テンゾウと離れてから、たとえ咥えたくとも俺の半分の年齢でしかないガキどもしか周りにいなかったし、俺にもその気はないから夜はそれこそ並んで仲良く寝ていたのだ。

だからせっかく気持ちよかったことを中断して、テンゾウにこんな視線を受ける謂れはないのだけど。

「テンゾウ?」

「じゃあ、この痕は一体何なんですか」

へ? とテンゾウが示す場所を頭を浮かせて確かめてみて、そうして目に入ってきた痕に俺は絶句した。

そう。あの黒い触手に巻きつかれて、俺の白い肌にはあちこちみみず腫れやら痣ができていた。鎖帷子を着ていてもこの威力だ。アンダーの下に隠れていてテンゾウも気がつかなかったのだろうが、自分で見てもかなり痛々しい。

あの戦いに後から駆けつけてきたテンゾウは、俺が触手で縛られたり、地面に押し倒されたことなんて夢にも知らない。だからこれが激しい情交の痕のように見えてしまっても、まぁ仕方がない話といえば話だ。

そして極め付けが……。

「何ですか、このハートマークは……」

俺のかわいい敏感乳首のすぐ横には、ぽつぽつとふぞろいの小さな穴が開いていた。

これは俺の心臓を奪おうと食い込んできた触手の痕だ。心臓を取り囲みながら、なんとハート型になっている。

「あー。あの老いぼれ、心臓はこんな形だって信じてたのかな」

ちょっとかわいいじゃない? くすくすと笑ってそういうと、ますますテンゾウは深刻になった。

「老いぼれ? 老いぼれって誰です」

「……ちょっと。殺気が漏れてるよ、テンゾウ」

相手が俺だからいいようなものの、こんな殺気を当てられては並みの上忍でも息ができない。

事情を話すと、テンゾウは拍子抜けしたようにぽかんとしていた。昔からそうなのだけど、いつも深刻な顔で任務をこなすわりには、テンゾウはわりと表情豊かだ。今もそんな顔をしていると、少なくとも3歳は幼く見える…って、言い過ぎ?

「わかりました。とりあえず医療忍者に診てもらいましょう」

さっきまで無理やり押し倒しておいしくいただこうとしていたくせに、まじめな顔をしてテンゾウは俺の腕を引っ張った。胸までたくし上げていたアンダーを下ろしてくれて、しばらく俺をじっと見ていたかと思うと、自分の上忍ベストを脱いで俺に着せた。

「さ、行きますよ」

「って、ちょっと、ちょっと待った」

ベットの端で踏ん張ったのだけど、やっぱりテンゾウの馬鹿力には敵わなかった。

玄関の方に引きずられながら、とにかくチャクラ切れなので寝かせて欲しいと頼むと、テンゾウの眉間に皺が寄った。

「そんなこと言って、痕が残ったら困るじゃないですか」

「もー。忍びなんだから、傷痕なんて今更じゃないの」

「ボクが、嫌なんです!」

「……」

「触手の痕ってだけでも許しがたいのに、ハート型だなんて、なめてる」

ぎり、と奥歯を噛み締めたテンゾウがいつになく怒っているのはわかるけど、俺は思わず笑ってしまった。

同じ触手使いとして別の触手の痕を嫌がるのも可笑しいし、「なめてる」なんて言葉遣いが妙に似合わなくて可笑しい。

「なに。テンゾウやきもち? 嫉妬してるのこんな痕なんかに」

けたけたと笑うと、俺の腕をつかむテンゾウの指にさらに力が入った。

「……先輩」

しかしこれはいい流れだ。形勢逆転のチャンスを見逃すことなく、俺は底意地の悪い笑みを浮かべた。

「俺のことが、好きなら好きって、言えば? 口説き方が気に入れば、この体、テンゾウの専属にしてやってもいいよ」

くすくすと笑いながら言ってやったら、俺の腕をつかんでいたテンゾウの顔色が一気に変わった。




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