木遁の贄2




気がつくと、少し離れて立っていたテンゾウがすぐ近くにいて、俺の根元をしっかりと握っていた。

出る、出そう…と、愉悦に浸っていた俺は涙でぐしゃぐしゃになった瞳を開いて、テンゾウを見下ろした。

「やっヤダ。何で……。う…は、離せ、…も、イかせてよ…っ」

もうイきたいばかりでバカになっていた俺は、ワケがわからなくなってテンゾウをなじっていた。

テンゾウは黙っている。

そしてふいに、根元を強く握って精道をせき止めたままで、俺と目を合わせてきた。

薄暗い木牢の中でその瞳は、本当に真っ黒に見えた。

絶好のチャンスだったのに。

写輪眼でこの理不尽な征服者を排除する絶好の機会だったというのに俺は。

見惚れてしまった。

テンゾウの暗い瞳に。

だって…。あまりにテンゾウが真剣に見るから。だから…。くそっ。

「イきたいんですか。先輩」

「…はっ…テンゾウ……あっ…」

意地悪く俺をイかせないようにしていた指が、一転してやわらかく動き始めた。

愛しいものを可愛がるような、そんな錯覚さえ抱かせるような、優しい手つきで。

「あぁ…」

何かに縋りたくても、拘束された身では何もつかめない。でも、ゆるゆると上下に緩急をつけて扱かれていると、そんなことどうでもよくなった。角材に拘束されて吊るされた間抜けな格好のままで、俺は知らず目を閉じていた。

すごい。気持ちいい。イクかも。うん、イきそう…。

そう思っていたら、ふいに下半身が熱いやわらかいものにつつまれた。

「え?」

驚いて目を開くと、眼下にテンゾウのつむじがあった。

テンゾウに口淫されてる! な、何で!?

混乱する俺をよそに、テンゾウは無言で行為に没頭し、口内に入らなかった分も指で扱くのを忘れなかった。

たまに閉じられるテンゾウの伏せた瞳から目を離せない。一気にかあっと頬が熱くなった。

「アッ! テンゾウ! だめだめッ、出る!」

イク瞬間はそれこそあの硬そうなテンゾウの髪をひっつかんでイきたかったのに、俺を拘束するのはテンゾウの逞しい体ではなくて、無粋な角材で。しかもケツにはちょっと太めの枝がつっこまれていた。

でもそんな己の状態を冷静に顧みる余裕もなく、出した後もしつこくテンゾウに吸われながら、びくびくと腰を震わせて俺は果てた。

一滴残らず俺の精子を搾り取ったテンゾウはようやく口を離し、唇をぬぐいながらこくんとその口の中のものを嚥下した。日に焼けたような健康な色をしたテンゾウの喉の動きが妙に艶かしい。

そして。

「ごちそうさま」

穏やかに微笑まれて、俺は羞恥のあまり卒倒しそうになった。

なにそれ。なにそれ。

男の癖に俺の精子のみこんじゃって、爽やかなくせにいやらしく笑って『ごちそうさま』って、なんだそれ!

出すもの出して脱力した俺を角材たちは解放し、俺はあられもない格好のままテンゾウの腕の中に崩れ落ちた。

何だか、尻の穴がいつもより広がっているみたいで、妙にスースーする…。

「先輩。寝ちゃうんですか?」

テンゾウの胸にもたれかかってぼーっとしていたら、笑いを含んだ声でそう言われて精子臭い唇でキスされそうになった。

い、いや、精子臭いとか言っても、それ俺が出したやつなんだけどね。

とにかく嫌だったので顔を背けて避けたら、性悪なテンゾウは俺の頭を無理やり押さえつけてきた。

「先輩」

声に非難が混じってるけど、俺はヤだから! 淫乱だった時だって、気に入ったヤツのしか飲まなかったんだもん俺は!

しばらく力比べの攻防戦が続いたけど、結局は現役暗部のテンゾウに俺は負けた。

あ。やだ。気持ち悪いのに…ヤダッ、そんな舌を絡めてぐっちゃぐっちゃに…。うぅ……。

自然に目蓋が落ちてきたから目を閉じたら、テンゾウの俺を抱く腕に力がこもった。調子こいてる!とは思ったけど、いつも穏やかなテンゾウが息を乱して唇を押しつけて、俺の口内を貪っているのを自覚したら、何だか……。

「ん、んんっ…」

息継ぎのためにほんの少しだけ唇を離して、テンゾウが俺の名を呼んだ。

「カカシ先輩…」

気づくと、両手が自由になっていた。

俺は同人界の受にあるまじき野太い井上声で叫んだ。

「雷切!」




* * * * *



そういうわけで、ナルトの修行を見ている間中、俺たちの間には常にぴりぴりした空気が漂っていた。

何も知らないナルトは無邪気に修行していたけど、若いっていいねぇ。

アイツはケツ穴狙ったり狙われたり、そういう殺伐とした男の戦いはもう経験したのかね。その手の講習を施す前に俺の手を離れちゃったから、上忍師としてはちょっと心配だったりするのよ。

木遁で牢や家が出せるせいか、テンゾウは青姦はしない主義のようだった。でも、野外でお布団並べて寝ていれば、いつ「ナルトに聞かれてもいいんですか。おとなしくしていてくださいよ、先輩(ハァハァ)」という展開になるかわからない。だから早々に俺は里を離れることにした。

――――と、いうのにこの体たらく。

「カカシ…。お前に減らされた分はお前の心臓で贖ってもらうぞ!」

「……!」

もうね。触手にもいろいろあるっていうことを俺は知ったね。

同じ覆面忍者とはいっても顔を隠す理由は多分俺と正反対であろう男に、ぬるぬるした黒い嫌な感触のもので絡めとられる。

生理的にこういうのを嫌う女の子のいのなんか「先生ー!」って叫んで顔面蒼白になってたけど、こんなの俺だって気持ち悪いよ!

そして容赦なくびったん!と地面に叩きつけられて、今更ながらテンゾウとの違いを感じた。

……ま、あいつは俺を殺そうとしているわけじゃないんだから、それなりに俺の体のことを気遣うのは当たり前のことなんだけれども。

大股開き状態にさせられて、あまつさえそんな俺の上で心臓を押さえられた日には、何だかじじいを腹上死させてるみたいで気分悪かったけど、つくづくそんな情けない姿をテンゾウに見られなくてよかった。

でも援軍として現れたテンゾウは、ベストも額宛もふっとんで、まるで『使い古したよれよれのアンダーをパジャマ代わりに家で着てます』状態の俺を見て冷たい目をした。

目も合わさずに「こんなカッコ悪い先輩は初めて見ましたよ…」なんて言われちゃったら……。

返す言葉もないよーね。ははは。

だから「ナルトの術は完成したのか?」と任務関係のことでしか話しかけられなくて、やっぱり冷たい目で俺を一瞥したテンゾウは仕方なしといった具合に「…いえ、五割程度です」と事務的な返事をした。「大丈夫ですか」ってぐらいお義理でも聞けよ。くそぅ。

しかも、駆けつけたからにはよれよれの俺を戦闘に参加させるつもりはないらしく、常に俺の前にいるから、それも元暗部の先輩である俺としてはちょっと、ね。確かに雷切を三発、水遁を一度発動した身では、万華鏡写輪眼を発動させるには不安があったものの、まだ俺は戦えるのに。ううう。

チャクラ管理は、忍びとして生き残るために最低限求められる基本的なことで。

だからナルトの新術を喰らって死にかけていた男にとどめを刺した瞬間に、チャクラ切れを起こして倒れてしまった俺を、テンゾウはどう思っただろうか。

「ボクが背負いますよ。先輩をおぶって帰るなんて久しぶりですね」

「……ウン」

でも、激しい戦いのせいで俺が汚れているのはもう今更なのに、服の泥を払ってくれて優しい声でテンゾウは手を差し伸べてきた。だからその顔を見ないままに、俺は素直に頷いて目の前のテンゾウの体にぎゅっとしがみついた。

「お姫様だっこされたいんですか。先輩」

「絶対イヤ」

正面から抱きついたからテンゾウはくすりと笑ってそう言っていたけれど、俺はのそのそとその背後にまわり直して背中にしがみつき、早く歩けとばかりにケツを足で蹴っ飛ばした。

「はいはい」

戦闘中とは一転して機嫌が良くなったけど、よくわからない男だ。

残存チャクラの計算もできずに大荷物になったはた迷惑な先輩(…俺のことだ)に蹴られて嬉しそうに笑うなんて、こいつサドの気だけじゃなくてマゾの気もあるんだろうか。

テンゾウのあったかい背中で揺られていたら、すごく気持ちよくて眠くなってしまって、俺はすり、と頬をすりつけた。

ガイにおぶわれた俺を見たときはドン引きだったサクラが、後ろで「ヤマカカか…でも、私的にはヤマサイの方が…」とぶつぶつ言っていたけど、山菜……? 最近の若い忍びの使う用語はよくわからない。

でも、俺は油断していた。まさしく『任務は家に無事に帰るまで』が任務だった。

テンゾウに大事に運ばれて気を良くした俺が涎を垂らして寝ていたら、なんと今日は四柱牢からグレードアップして四柱家の術で出した家に連れ込まれていたのだ!




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