心の遠い繋がり1




彼は体のほとんどの部分を隠した支給服を着ていても、イルカの情欲を嫌というほどあおった。

「イルカ先生。どーも。これお願いします」

「おつかれさまです」

任務報告書を差し出すカカシは、当たり前のことだが完璧に上忍の顔をしていた。

イルカはにこり、と対外用の微笑を浮かべて、しかしさりげなく、去っていくカカシの後姿を最後まで見送った。

すっきりした後姿に、思わず情事中の彼を連想してしまう。

カカシが上忍師に就いてからは、ふたりの関係は一年に数回から月に数回というペースになった。

何の前触れもなくイルカの閨を訪れるカカシ。

彼はいつも最初にぎゅっと腕の中で強く抱きしめられることを望む。

この時に愛をささやくことができればどれ程いいだろう。だが、イルカは何も言い出せない。

彼は一通り抱かれれば、それだけが目的だったと云わんばかりに姿を消す。名残惜しさなど微塵も感じられず、後も振り返らない。

次はいつになるのか、ひょっとしたらこれが最後になるのか。

そう考えるといつもイルカは余裕なくカカシの身体を揺さぶってしまう。

カカシは喘ぎ声をあまりださない。

二人の間に約束事は何もない。

「カカシさんはなぜ・・・俺に抱かれるんですか」

カカシが里に常駐するようになってから二ヶ月。回数が増えたこと以外に、二人の関係にはまだ何の変化もなかった。

今日も壊れ物を抱くように、そして激しく彼を組み敷いた後で。体力をかなり消耗した感のカカシが支給服のアンダーを着ている隙に、彼が帰ってしまう前に、イルカはそう訊ねた。

心をどこかに飛ばした人のようにカカシはしばらく虚空を見つめ、そしてぼんやりとした声でその問いに答えた。

「・・・・・・えっと。多分。淫乱・・・だから?」

「・・・・・・」

なぜ『自分』に抱かれるのか。そう訊きたかった答えはあまりにも簡潔に酷い言葉で返された。

淫乱。身体だけの関係。

それが証拠に、今日も事が済めばカカシは窓から音もなく消える。

「・・・・・・カカシ」

イルカは先ほどまで彼がよがっていたベットの上で胸を押さえた。

甘い言葉を期待していたわけではないが、自分で思っていた以上にダメージが大きい。

イルカは。

どんなにカカシの訪れが稀であっても、他の誰も抱かなかった。

カカシと初めて会ったのは、まだイルカの父も、そして木の葉の白い牙も生きていた、九尾事件よりもかなり以前のことだった。

色白で綺麗なカカシに一目ぼれして、無口な彼の気を引こうとイルカは子供なりの幼稚な好意の示し方をした。つまりいたずらをして彼を一生懸命に苛めた。

もちろん既に下忍になっていて額当てをつけていたカカシは、毛虫などには全く動じずにこりともせずに服の中のそれを草むらに放ってくれたりしたが。

まるで相手にされていなかったのに、それでもカカシは時々イルカの前に現れた。

そしてイルカが中忍になって何年か経った頃。

カカシは真っ白な暗部服を着て、数年ぶりにイルカの前に現れた。

小さくて華奢だった子供時代のカカシ。伸びた手足が、そして身長が、自分とそう変わらなくなっていたことに驚き、ますます綺麗になっていたカカシに心臓がはねた。

今思えば、あの時のカカシは、ただ抱きしめられたかっただけなのかもしれない。

「抱いて」

でも、思春期真っ只中の少年を前にその言葉は、やはり暴走させるきっかけにしかならないだろう、と今でも思う。

抱きしめたカカシを押し倒すと、草の匂いが強くなった。カカシは一瞬身体を強張らせたが、すぐに力を抜いてしがみついてきた。

初めて彼を抱いた時、既に左の瞳は赤くなっていて、その上から走る傷とそして回る勾玉を目にしてイルカは我を忘れた。

あの時のイルカは、カカシのことを女の子だと思っていて、「・・・・・・出そう」と言われたとき、彼が何を言っているかわからなかった。

何の知識もなかったふたりには結局挿入は果たせなかった。だがイルカはお互いの精子に濡れたカカシの肢体を見て、そのあまりの淫靡さに我を忘れてカカシの唇を貪った。

カカシは、初めて少し笑って、しかし眠ってしまったイルカを置いて姿を消した。

女の子だと思っていたカカシが男だったと知っても、彼を想う気持ちは変わらなかった。

「・・・・・・男の抱き方を教えてください」

悩んで悩んで、不審に思った上忍師に「何か悩みでもあるのか」と問い詰められて。観念してそう言った時、相手は酷く驚いた顔をした。

そうして培ってきた数年越しの恋は、やはりイルカの片想いだったようだ。

自らを『淫乱』と称してその言葉を証明するように、カカシはイルカの閨を訪れる。

あの時の会話以来、情事中のカカシの声には甘いものが以前より含まれるようになった。いっそ意識を奪うほど抱いて、無理やりこの腕に囲ってしまおうか。しかしカカシはイルカの腕をすり抜ける。決して抱き潰されたりはしない。何度しても同じ。

だが今日は帰る隙を与えず、カカシの腕をつかんで、イルカは再び彼の体の中に出入りを始めた。

生理的な涙がカカシの目に滲んで、息が乱れる。

抱きしめると必死な感じで抱きしめ返してきた。

たったそれだけのことなのにイルカは自身がカカシの体の中で膨張するのを感じた。カカシがうめく。

「・・・・・・どうして俺にこんなこと許してくれるんですか」

「・・・え?・・・・・・あ・・・んむっ!」

この間と同じことをしつこくまた訊いたくせに、カカシをしゃべらせたくなくてイルカは強引に唇をふさいだ。

そしてそのまま息もつかせないつもりで揺さぶった。

見開かれた瞳がぎゅっと閉じられる。逃がさないようにその身体を強く拘束すると、苦痛か、それとも快感のあまり出たのか、判断に困るよくわからない泣きそうな声で喘いだ。

でも打ちつける力は緩めない。

「・・・っ、イルカ・・・」

「黙れ」

とにかく無性にカカシを喘がせたくて、夢中で彼の身体を探り続けた。

カカシは。

ひっきりなしに自分の喉から出る声に怯えて、泣いてイルカの胸を叩いて抵抗を始めた。

「やだっ。もうやだっ帰る!」

これほどに乱れたカカシを見るのは初めてだったから、イルカはその訴えにも耳を貸さず、自分の好きに彼を揺さぶり続けた。

これが最後になるかもしれない。

カカシが嫌がる素振りを見せたのも初めてだったから、イルカはそう覚悟して彼を犯し続けた。




→次