心の遠い繋がり2




全てが終わり、手を離すとカカシは呆然とそのまま身を横たえていた。

乱れきっていた髪を整えてやり、お湯で濡らした布で身体を拭いてやっても、大人しくされるままにして寝ていた。

散々中に出したものを掻き出そうとした時だけ、弱々しく抵抗をしたが、唇をあわせるとまた静かになった。言われるままにイルカの肩に手をかけ、恥ずかしそうにうつむいて指を受け入れた。その様子を見てイルカはまた彼を抱きたくなってしまったが、何とか本能を抑え切った。カカシのそこはさっきの無理な抽挿のせいで腫れていた。

「ねぇ。カカシさん」

「・・・・・・はい」

「このまま。ここで俺と眠って朝を迎えるのは嫌ですか?」

目をあわせてそう言うと、カカシはうつむいてその視線を逸らした。

絶望的な思いに駆られて。無理やり唇を奪おうと抱き寄せて頬に手を当てた瞬間、小さな声でカカシがつぶやいた。

「・・・・・・イヤじゃないです」

「カカシさん?」

「・・・・・・」

黙ってしまったカカシを強く抱きしめると、背後に腕がまわってきた。

これだけは昔から変わらない。

情事が終わるとそっけなく帰る彼だが、抱きしめるイルカの腕に逆らったことは一度もない。

今もイルカの腕の中で静かに目を伏せている。

これほど静かな時間を持ったのは身体を繋げてから初めてのことだった。カカシが逃げる様子がないのを見て、イルカは言った。

「俺はあなたとただセックスするだけじゃなくて、抱き合って寝たり、一緒にご飯を食べたり、そういうつきあいがしたいんですが・・・カカシさんはそういうの嫌ですか」

「・・・・・・」

カカシは今度は、嫌ともいいとも言わなかった。

「身体だけだと、不安になります。なんであなたは俺なんかに抱かせてくれるんだろうって。いつもそう考えてます。正直、苦しいです」

「・・・・・・そんなこと、考えたこともありませんでした」

ぽつりとそう答えたカカシが、腕の中から抜け出そうとしたから、イルカはその身体を押さえつけた。

突然のイルカの強引さにカカシは驚いて声も出せないでいる。

今日は嫌われることばかりしている。そう思ったが、このまま彼を帰す気にはなれない。

「自分は淫乱だとか、言ってましたよね」

「・・・・・・はい」

酷い言葉を自分から出しておいて、イルカは肯定したカカシの言葉に傷ついた。

見上げてくる色違いの瞳が綺麗だった。だが、この眼差しを他の男にも見せていると思ったら、どうしようもなく苦しい。気が狂いそうになる。

「誰としてもいい、それがたまたま俺だっていう話だったら、このまま俺としてください。あなたにはたいしたことじゃなくても、俺にしてはたいしたことです」

長年抱いていた気持ちを正直に言うと、カカシはしばらくの間考え込むように黙った。

沈黙が怖い。

いつ「帰る」と言い出すかわからないので、イルカはカカシを抱く腕に力をこめた。

力をこめれば、条件反射とでもいうようにやはりカカシも抱きしめ返してきた。

しかし沈黙が怖い。

踏み込んだことを訊いたことにイルカが後悔してから大分経った頃に、カカシがぽつりと言った。

「俺は最初からあなたにしか抱かれてませんが」

「・・・・・・え?」

「イルカはもしかしてそうじゃない? 淫乱な俺に飽きましたか」

「まさか!」

思ってもいなかったカカシの言葉に、イルカは慌てて否定した。

カカシは腕の中で大人しくしている。

心臓がどきどきして、緊張に手が汗ばんでしまっているのをイルカは感じた。

そんなイルカをカカシはやや不思議そうに見て、きつい抱擁の中で少し身じろぎした。

「カカシさん」

「はい」

「今夜はここで寝て、そして明日の朝俺と一緒に飯を食ってください。それから任務が終わったらまたここに戻ってきて、晩飯も一緒に食べてください」

「・・・・・・」

「嫌ですか?」

「・・・イヤじゃない・・・です」

相変わらず多くを話そうとしないカカシの身体を抱きしめて、イルカは生まれて初めて添い寝をした。

心臓に血液がどくどくと流れて、カカシの匂いで頭がいっぱいになって、とても眠れなかった。

目を閉じているがカカシも眠れないようだ。

だがイルカとは少し違い、他人と肌をあわせて寝ていることに戸惑いがあるような、そんな様子だった。

時折窮屈そうにイルカにしがみつく腕の角度を変える。

「カカシさん。好きです」

「・・・・・・」

「好きです」

身体しか抱かせなかったカカシが腕の中にいることに幸せを感じて、イルカはささやいた。

カカシが聞いてようがいまいが、そして答えようが答えまいが、構わない。

「好きです。カカシさん」

ささやいて、抱きしめた。

抱きしめればそれにはカカシも応えてくれる。

一晩中イルカは、カカシの髪をすき、抱きしめ、そして「好きだ」と繰り返した。

十年近くも足りなかった言葉を補って、ふたりが恋人同士になったのは、すぐ次の日のことだった。




【終】