中を好き勝手に漁られ、精液を真奥に注がれた瞬間。
イルカは鋭い目をしたままで屈辱に耐えた。
「お願い・・・俺のものになって。イルカ先生・・・・・・」
うわごとのように繰り返す上忍を殴り倒したい衝動に駆られ、イルカは力の入らない腕を振り回した。
いつからか、イルカはカカシと階級差を超えた親しいつきあいをするようになった。だから、つい気を許して話してしまった。
「彼女とつきあおうと思ってるんです」
健気に告白されて、素直に嬉しくて。こんな自分でもと求められるなら、応えてやりたい。
日頃親しく酒を酌み交わす仲だけに、特別にカカシにだけに打ち明けた内緒話。
「そう」
表面上何の変化もなく静かに相槌を打っていた男は、イルカの部屋に上がりこむなり豹変した。
「求められたら、誰でも受け入れるんですか。イルカ先生」
情熱的なのか、冷酷なのか、わからないような声でカカシが言った。
「じゃあ。俺のことも受け入れてよ」
抵抗は上忍の力に易々と封じ込められた。
無理やり体をこじあけて侵入してくる舌と指と、そして優しいふりをして体の奥の何かをわしづかみにする恐ろしい愛撫と。
「やめ・・・やめてください。カカシさん」
「俺のものになって」
「それって、どういう・・・・・・ッ、やめろ!」
拒絶の言葉は聞き入れてもらえなかった。
自分の体をいいようにまさぐるカカシの行為に心底怒りを感じた。
なのに、同性だからこそなのか。何もかも知られているような手練手管に体が先に陥落した。
イルカの反応を知っている指。
確信に満ちたその動き。
直感した。
恐慌状態に陥りながらも、イルカはそれに気がついた。
「お願い。イルカ先生」
「・・・・・・この、野郎」
ただ体の中に男の性器を入れられて射精されただけだ。
汚されたとか征服されたとか感じる方がどうかしている。
「離せ」
弾む呼吸を整えて短く言うと、まだ体の中から出て行こうとしない上忍が泣きそうな顔をした。
「痛かった? ごめんね。イルカ先生。でも、俺」
「カカシさんも初めての時は痛かったんですか」
「・・・・・・え?」
瞬間、カカシの目に怯えたような感情が走ったのをイルカは見逃さなかった。
直感は正しかった。
経験がある。
この男は、これと同じことを誰かにされたことがある。
やっぱり、と。舌なめずりしたい思いでイルカは微笑んだ。
その表情を見て、カカシがぴたりと動きを止めた。
「俺のモノになってと懇願されて揺さぶられて、それでアナタはその男に屈したんだ?」
かわいそうなぐらいに蒼ざめる上忍の姿。それを見てほんの少しだけ溜飲が下がった。
「違います。俺は」
「自分もその男に支配させたから、今度は俺を支配しようと思ったんですね」
「違います!」
だがそれはカカシの計算違いだ。イルカはエリート街道を歩いてきたカカシなんかより、よっぽど図太い。男の精液なんかで穢れもしなければ、精神的に屈したりもしない。
「でも、不安なんでしょう。あなたは身をもって知ってる。女と違って、男は体に想いが引きずられたりなんかしない」
「違う。俺はイルカ先生が」
「俺が?」
「好きなんです」
断罪される痛みに耐えるような静かな声でカカシがつぶやいた。
「俺、イルカ先生が、好きなんです」
「へええ」
同性同士で、それはすごい。
何がすごいって、誰よりも忍びという生業にどっぷり浸かりながら、まだ愛をささやく純情さが残っていることもすごい。
「欲しいかも」
「・・・・・・え?」
戸惑うカカシを体の中に入れたまま、イルカは下から腕を伸ばした。
唇と首筋にくちづけを落として、呆然としているカカシの体に腕を回した。
「俺、さっきは急に襲われて何がなんだかわからなかったんですよね。だから」
腰をゆすって中のカカシを刺激すると、望むとおりの反応をすぐさま示してきた。
素直な体とは裏腹に、カカシ本人はあからさまな求愛に呆然としている。
「今度はもっとゆっくり俺にください」
体も。
心も。
あなたの全てを。
そう告げて微笑むと、いとも簡単に男は篭絡した。
「好きです。イルカ先生。好き」
激しい律動にも意識を飛ばすことなく、イルカは己を貪るカカシを見つめ続けた。
これほど無防備に容易く支配させるこの人を、そいつは捨てたのか、それとも逃げられたのか。
カカシの体の向こうにいる誰かを意識しながら、イルカは抱かれた。
最中の間ずっと、カカシは愛をささやき続けた。
【終】