爪痕 テンカカバージョン




誘うだけ誘ってその妖艶な微笑の奥には決して踏み込ませないカカシに、テンゾウはもう長いこと悩まされていた。

繋がればお互い躯だけは求め合って、まるで心まで溶け合えたような錯覚に陥る。

ハードな任務の後に抱き合った回数は、もう方手の指では数え切れない。

「・・・・・・先輩・・・先輩・・・カカシ、先輩」

せつなさに耐え切れずカカシを呼べば、躯は素直に応えてくれる。

そこらのくノ一や遊郭の女とは比べ物にならないほどの淫らさ、妖艶さで、テンゾウを呑みこみ、そして笑う。

誰よりも強いのに、こんなにも無造作にテンゾウに綺麗な躯を抱かせるカカシ。

「テンゾウ以外とはシテナイけど。それじゃあ答えにならない?」

いつか『何故』と訊いた時に、色違いの瞳を細めてカカシはそう言った。

女とはその質の全てが明らかに違うのに、その肢体、吐息、視線ひとつで男の欲望をいとも簡単に煽るその人は、自分とこうなる前はかなり性に関して奔放だったらしい。

戦場ではぞくぞくするほど強いこの人が、自分の下で弱いふりをして喘ぐこの光景。

過去のこととはいえ、一体何人がカカシのこの姿を見たのか、考えるとカカシの躯を優しく扱えなくなった。なのにその度にカカシは息を切らしながら、微笑む。

「・・・テンゾウ・・・テンゾウ・・・」

「・・・・・・せんぱ・・・」

背中に熱い何かが走った時、カカシはうっとりと目を閉じていた。

爪を立てられた。それも痕が残るほどに深く。

カカシが我を忘れて縋りついたためについたものとは、残念ながら思えなかった。意識を飛ばすなんて、そんな可愛げのある姿はカカシは見せてくれない。良くも悪くも、カカシはいつでも冷静だ。

動きは止めないまま、カカシの行為のその意味を考えてテンゾウは眉をひそめた。

カカシがゆっくりと瞳を開く。

写輪眼と真っ向から見つめ合わないよう、無意識にテンゾウは少しだけ目を逸らした。

「・・・これって、独占欲の表れだと思ってもいいんですか」

ひりつく僅かな痛みに意識を向ければ、カカシがその傷痕を上から何度もなぞっているのがわかった。

「どうせ見えない場所なんだから、いいじゃない。何、見えるところに痕が欲しいの?」

「・・・・・・そうですね。できれば」

肯定されるとは思わなかったのだろう。

ほんの少しだけ意外そうに瞬きをしたカカシは、すっとテンゾウの前髪に軽く触れた。

「我がまま、言わないでテンゾウ」

喰われている。

カカシを抱く時はいつでも原始的な畏れが、常にテンゾウを支配していた。

気まぐれに与えられた爪痕とは等価になりえないのは重々承知の上で、テンゾウは届く限りのカカシの躯の奥まで穿とうと彼を抱きこんだ。

くすくすと笑ってテンゾウを受け入れるカカシ。

呑み込まれる欲望。そしてかすかに擦れ合わされる精神。

しかし、どれだけ求めても、カカシの奥には果てがなかった。

「・・・先輩」

カカシに見つめられたまま、テンゾウは自身のせつなげな声を今日も、聞いた。




【終】