犯そうとした唇に指に、呆然とした視線。
被捕食者の怯え。
「お前があんな簡単な任務をしくじるなんてね」
ため息混じりに告げれば、テンゾウの震えが一層酷くなった。
「あんなみすぼらしいガキが好みか。本来なら一週間ぐらいくのいちの姐さんか廓の一室に預けるところなんだけど、生憎それはそれで事件があったばっかなのよ。タイミングが悪かったねえ。ごめんねえ」
「……せ、先輩っ」
テンゾウは、俺にとって大事な預かり物だった。
忍びの業を仕込む時も、そして精神も。卑屈になりがちな萎縮するこの子供を俺なりに優しく保護してきたつもりだ。
お互いうちはの粘っこい監視からは逃れられない身だ。少しばかり年長の自分が息をつける場所を作って、道を掻き分けてやっても罰は当たらない。
色めいたやり取りなんか、一度だって見せなかったし仕掛けなかった。
だから、テンゾウにとってこんなのは裏切りにも等しいのだろう。慈しんで保護してきた手を一転、性的なものに変えてしまえば、荒れる呼吸の音がふたりの世界を今までとは全く別の物に彩る。
「っ、あ……や、だ。せんぱい……っ!」
「ちょっと。女の子みたいな声出さないでよ」
興奮しちゃうからさ。
カッと羞恥に染まった頬が、首筋が、かわいい。
まだまだ男とは表現し難い、細くて脂肪の薄い肢体は、よく考えたら、俺もそう変わらないか……。
なんて手は休めずにぼんやり考えていたら、肩に衝撃が走った。
「くくっ…噛んだな……」
目をかけてきた後輩の、こちらに致命傷を与えないようにした必死の抵抗は非常にそそられた。
疵口にテンゾウの唾液がついているかと思うと、馬鹿みたいに体の奥がじんわりと熱くなる。
やや乱暴に顎を捕らえて目を合わせたら、びくっとして動かなくなった。
「かわいいなあ」
やばいねえ。指導の一環だってのに、これじゃあまるで俺が変態みたいじゃないのよ。
飼い犬と違って、猫は噛むのか。
でもその瞳の奥で揺れてる、この期に及んで「嫌われたくない」みたいな感情は変態の餌食にしかならないだろお前。
俺は噛まれる前よりも、さらに優しく熱心にテンゾウに触れた。
声が漏れるまで。
理性と羞恥が瓦解するまで。
耳元でささやく。
「犯される時はね、男の性ってやつをようく利用してやるんだよ? ぎらぎらしてる時に抵抗しちゃあ骨が折れるでしょ。だからね、吐精して弛緩したところを……」
「あっ、あぁ……っ!」
.
かっさばけ。
.
俺以外の、お前を搾取するすべての者を。
こんな声を、聞かせた男はすべて殺せ。
耳に残るテンゾウの声を、俺は心ゆくまで味わい、独占欲を隠そうともせず舌でその証のものをなめとりながら、かなり長いこと、微笑んでいた。
【終】