人を恋うれば穴ふたつ




目覚めの不快感がやけに体を気だるくさせる。

ぼんやりと目蓋を上げた時、目の前に白く見覚えのない華奢な肩が見えてきて、僕は一気に覚醒した。

これほど自然に僕の腕の中で寝られるのは、カカシ先輩以外にはいないはずだ。

だが、掛け布団の隙間から見える肩から腰まで、それはどう見ても女のものだった。すね毛のない柔らかい下肢も、毛布の下、僕のそれと素肌と素肌で触れ合っている……。

文字通りの丸腰。クナイどころか一片の布さえ纏っていない状況で、動揺しながらも僕は女の顔を確かめようとした。

髪はカカシ先輩と同じ銀色。

透き通るほどに肌も白い。

覗き込んでいくと、繊細な顎と閉じている長い睫毛が見えた。

化粧っけのない薄紅色の唇が、呼吸にあわせてほんの少し開いている。

体を起こしながら密かに印を組み、相手が不穏な動きをすればすぐさま拘束できるよう準備をしていた僕は、ついにその女の容貌を正面から見て、悲鳴を上げそうになった。

「カ、カカシ先輩……!?」

「……んー?」

眠たげな瞳の印象は男の時と同じもので……。しかしすぐに色違いの瞳は閉じられ、細い腕を伸ばして先輩は毛布を被り直した。

そのさなぎになる直前のカブトムシみたいに緩慢な動作を、僕はたっぷり30秒は放心しながら見つめていたが、すぐに我に返って女の先輩が被った毛布を剥いだ。

「どうしてそんな姿で寝ているんでしょう先輩は」

「……もぉー。寒いよテンゾウ……」

「寒いじゃなくて、起きてください」

「……」

僕の言葉を無視して背中を向けた先輩の腕をぴしりと打つと、ようやく恨めしい顔で体を起こした。

「もぉ。朝っぱらから何なのよ」

女の外見と声なのに、その口調は男の時の印象と変わらずオカマっぽい。

しかも女の体で、下穿きをつけてないどころか素っ裸なのに、いつもと同じ要領で猫背のまま胡坐をかかれると目のやりどころに困る。

……が、問題はそこじゃない。

雪中の梅花みたいに鮮やかな女の乳首がついた乳房に、見るも生々しい歯形がついている……。細い首筋にも無数の噛み痕と鬱血の痕。

まさか、僕がつけたのか。

僕以外の人間がつけたとなれば、それはそれで由々しき事態だが、まさか。

僕は昨夜の記憶を辿っていき、任務後の朦朧とした意識の中でなされた行為の断片を思い出して「うう」と呻いた。

思い出してしまえば、合意もなしに掘られたケツが痛みにじんじんと疼く。

そういえば、薄ら笑いを浮かべた先輩に、僕は何度も懇願したような気がする。

最初は気持ちよく先輩にはめられて食われて、それまではよかったけど、次は下にされてしつっこく可愛がられたんだった。挿入前はともかくとして、慣れないネコ役で快感よりも苦痛を感じている僕に先輩はやけに興奮していて、そして……。

「だってフルコースの気分だったんだもん昨日は。テンゾが呻く声がやたらえろかったから、俺もオンナの部分が疼いてさぁ。それに、掘られてるテンゾウやっぱりちょっとかわいそうだったし、最後は挿れさせてあげて気持ちよくしてあげたくなっちゃったんだよね。どう。優しいでしょ、俺」

「う、うぅ……ぅ……」

思い出した。掘られた違和感の分、次に激しく先輩の体を抱いたのは、思い出した。

でも。

「女体、でしたっけ……」

「うん。テンゾ、すごかったよ?」

「……」

お、覚えて…ません…。

昨夜最後に抱いたのが女体の先輩だったなんて。

「あんな激しかったの…久しぶり……」

ほぅ、と熱い息を吐いて先輩は夢見るような瞳をしたけど、そんな色っぽい仕草も今の僕には目に入らなかった。

何に落ち込んでいるのか、自分でもわからないが。

昨夜のフルコースで満足げな先輩とは対照的に、僕はしばらく暗い顔で過ごした。




【終】