片恋




足元の隙間に、白い肌が見え隠れして、目を焼いた。

遊女に化けた忍び。

天井裏にも忍び。

上機嫌に遊女の柳腰を引き寄せ戯れる男は、己の命があと数秒であることを知らない。

木ノ葉の忍びなどは一生に一度も口に出来ないような上質な酒を、己の娘よりも若い遊女の肌に塗りこめて舌を這わせる。

男の偏執的な愛撫を拒否することなく、やんわりと押し返して官能をあおる指を、僕は見続けた。

まだか。

閉じた瞳が言葉もなく天井裏に潜む僕に問う。

隣の房で先程から続けられている律動は、未だ止まない。

忍びの耳に聞こえ続ける女の感極まった声と吐息が、眼下の光景と重なり始める。

女の姿をとったカカシ先輩は男に組み敷かれ、たおやかなふりをして微かに身を震わせた。

元の先輩とは似ても似つかない容貌や仕草を、ひとつひとつ視線でたどる度に心の底に苦い味が広がる。

先輩に抱かれた女達は、まさかこんな利用のされ方をされるとは思ってもみなかっただろう。

酷い人だ。あなたは。

任務中で集中しなければいけない状況にも関わらず、唇に嫌な笑みが浮かんだのが自分でわかった。

耳に届いていた律動が止む。

一気に噴き出す濃厚な汗の臭いは、演技を続けるカカシ先輩の鼻に届いただろうか。

先輩の柔肌を弄ぶ男ののど元に刃を叩き付け食い込ませた時、目が合った。

即座に声を上げるはずの先輩は、一瞬の後に、ようやく絹を裂くような悲鳴を上げた。

しまった。

僕は刀を振り払い、血飛沫を浴びた先輩を振り返らずに廊下に出た。

隣の房に乱入し、精を吐き終えたばかりの男の際すれすれに刀を突き刺す。

気づかれたかもしれない。

「取り引きは無効だ。下手に動けば、さらに人が死ぬ」

面越しの声は、心の動揺を何一つ反映していなかった。

そうだ。

知られるわけにはいかない。

未だ僕の動向を注視しているはずの先輩の存在を意識しながら、僕はゆっくりと刀を引き抜いた。




【終】