黒猫のテンゾウ




やあ。ボクは黒猫のテンゾウ。

まだいたいけな子猫時代に恐ろしいオカマ蛇の巣で想像も絶する悪戯をされてから、頭に緑の葉っぱが生えるようになったんだけど、今ではこれがボクのトレードマークさ。ああ、そんな顔しないでくれ。普通の猫と少しばかり違うからって、ボクはそんなに気にしてないよ。

たまに近所のクソガキ共に「あーっ! 黒猫やまとだあ!」と追いかけられることもあるけど、それもそれほど気にしてないよ。ズウゥゥーーン! って、顔に影つけて脅すのも、嫌いじゃあないからね。ふふふ。

と、そんな孤独を愛するボクの縄張り付近に、ある日カカシさんという白い毛並みの綺麗な猫がやってきた。

ツンとした尻尾が生意気で、本当にかわいい。

シャイなボクとしては、物陰からこっそりカカシさんの姿を眺めているしかなかったんだけど、恋をするとフェロモンがダダ漏れになってしまうのだろうか。

カカシさんは鼻が利く。

見られていることなんか、とっくにお見通しのようだった。

ボクに無関心なふりを装いながら、たまに流し目をくれるカカシさんに、ボクは毎日めろめろしていた。カカシさんとばっちり目が合ってしまった日なんかは、恥ずかしくて恥ずかしくて、気持ちが高ぶってしまって、普段冷静で落ち着いているはずのボクが、縄張り中を夢中で走り回って発散した。

そんな片想いの気持ちを日々カカシさんに甘酸っぱく揺さぶられているうちに、猫界にとっての一大イベント、発情期がやってきた。

チャンスのような、そうでないような……。ボクの大好きなカカシさんが、他のオスに首筋を噛まれて乱暴に扱われているかもしれないと思うだけで、ボクの胸は張り裂けそうだった。

殺伐とした発情期の戦いを尻目にあてもなくカカシさんを探して探して。夕暮れ時にしょんぼりうな垂れてねぐらに帰ってきたら、これは何かの奇跡だろうか! カカシさんが、いつもはピンと立てている尻尾を揺らしながら、ボクの方を見ているじゃないか!

「カカシさん!」

駆け寄ったら、しなやかな動きですいとからかわれる様にかわされた。

「好きです!」

「へーぇ?」

「好きなんです」

必死で訴えると、カカシさんは少し嬉しそうに微笑んだ。

「本当……?」

「はい!」

「ふふっ」

そんなカカシさんの態度に勇気を得て追いかけると、すっと背中を見せたり、微妙な位置で立ち止まって尻尾を揺らしたりする。やっぱり、本気では嫌がっていないようだ。

「待ってカカシさん」

やがて追いかけっこにも飽きたのか、カカシさんがボクをいやらしい声で誘いだした。

その声と、ボクの方に尻を向けてそっと振り返っている仕草に余裕をなくして。

とにかく、カカシさんがかわいくみだらに誘うので。

慎重なこのボクが、滅多に出さない暴れン棒をしこしこ準備して。

乗っかってみたら……。


 .

「え!?」


 .

オスだった。

信じられないけど、オスだった。

びっくりして。

本当にもう、びっくりして。

感情に正直なナニがしおしおしていくのも自分の意思では止められなかったけど、それより何より本当にショックで。

固まっていたら、ボクに組み敷かれているカカシさんが、傷ついた瞳で振り返って、

「俺のこと『好きだ』って言ったくせに……ウソツキ……」

って、泣きそうな声で、言うから。

言うから……。

ボクはその時、自分の心臓がキューン! と鳴る音を聞いてしまった。

しかも、反応したのは心だけじゃない。高嶺の花だったカカシさんのこんな意外な表情を見てしまって、ズキューン! と即物的な興奮が股間のど真ん中を直撃した。

ボクは観念した。それで、自分の感情に正直になることにした。

「ウソじゃないです。大好きです。ただ、ボク、あなたのことオスだと思ってなかったから……。ごめんね。カカシさん」

「やだぁ。もう触らないでよ。このウソツキぃ」

耳も尻尾も垂れてしまったカカシさんは、ボクを突っぱねるか拗ねて甘えるか迷っていたようだけど、ペロペロと体をなめてあげたら、おとなしくなった。

確かにオスはオスなんだけど。

よく見たら、ふさふさに毛の生えたふぐりが、すごくかわいい。

なめちゃっても……いいよね、とやりたいようにやっていたら。

カカシさんはあんあん鳴くし、ボクはその声や痴態にやたら興奮するしで。

気がついたら。

オス同士なのに、交尾、成功してしまった。

しかも、何発も。

本日二度目のびっくり。

コトが終わって、ボクはカカシさんを傷つけないように、そっと大活躍したソレを抜こうとしたんだけど。

気をつけたつもりだったのに、

「痛い! テンゾウの馬鹿!」

とカカシさんに叫ばれた。

うわぁ。ごめんなさい!

で、でも、猫のサガなんだから、仕方がないじゃないですか。第一、メス猫だったら、そのトゲの痛みで……って、い、いえいえいえ。何でもないです。オスとかメスとかどうでもいいことですよね。ごめんなさい。ボクの大切なカカシさんを痛がらせるなんて、これはイケナイチンチnです。ごめんなさい。

と、そんなことより!

『テンゾウ』って! 『テンゾウ』って、カカシさん!

ボクの名前、知っててくれたんですか!

天にも昇る気持ちっていうのは、こういうことを言うのだろうか。

交尾中はめちゃくちゃかわいかったくせに、終わるやいなや、カカシさんは「ふん。名前ぐらいどうだっていうの」と元の高飛車な態度に戻ってしまったんだけど。

「じゃあ、今度する時はいっぱいボクの名前を呼んでくださいね?」

と微笑みかけたら、ツンとした顔をしているくせに、尻尾がぶるぶるゆらゆらしていた。

ボクものどがごろごろ鳴ってしまうのを止められない。

「恥ずかしいヤツ…」

そう憎まれ口をたたきながらも。

カカシさんはするっとボクの体の内側に入ってきて、すりすりとマーキングをはじめた。

ああ。カカシさん……。

ボクは今、すごく幸せです。




【終】

とある単語の関係からのぎわさんにこっそり捧げます。vvv