酔ってるから、ごめーんね?




酔いたがる先輩は、本当になんというか、非常に最悪に性質が悪い。

「あああん。やだぁ、テンゾウ。もう一本飲みたい。もうちょっと飲みたい」

目をうるうるさせてボクにすりよって来ながら、『清酒の場合は一人一本』という取り決めを破ろうと、いやらしい声で強請ってくる。

「もう。ほどほどにするっていう約束でしょう? 二日酔いになって苦しい思いをするのは先輩ですよ」

「いいの。明日のことなんてどうでもいい。だっていつ死ぬかわかんないもん。だから、生きてるうちはテンゾウと気持ちいことだけしてたいの俺」

ふにゃり、と、邪気のない笑顔で言うけれど、あんたも男だ。男の生理よくわかってんでしょう。

男は、ヤると決めてる夜は深酒はしない生き物なんですよ!

なのに先輩は、熱くなった頬をボクにすりすりしながら、「はぁ」だの「あぁ」だの煽ってくる。

これはあれか。

拷問ですか。

勃ちようにも勃てない状況に追い込んでおいて、こんな誘惑の仕方ってありか。

「テェンゾォ」

ふにゃふにゃの先輩をしかめっ面で抱き寄せながら、ボクはため息をついた。

「はい。酒ね。お酒ですよ」

「んっ」

投げやりに水をたらふく飲ませてやると、大人しく目を閉じてのどをごくごくさせている。

何か、脳の容量の少ない小動物みたい。

ぷっとふきだして、ボクは就寝の準備を始めた。

先輩は酔っているなら何でも許されると思っているのか、口の端から水をこぼして嬉しそうに笑っている。

「しつけが必要ですよね……」

今日は先輩の口から「ごめんなさい」が聞きたい気分。

「あ、テンゾォ…ベットまで運んでくれるのぉ? あっははは。苦しゅうない。…ひっく!」

ボクは我が侭放題でいい気になっている先輩を抱き上げ、どう料理しようかと算段しながら、胸の内でくすりと笑った。




* * * * *



寝台に運ぶ僅かな時間に、先輩はうとうとと目蓋を落とし始めた。

「ダメ。まだ寝ちゃダメですよ……先輩」

その声を聞いてゆるく重たげに目を開いた先輩を組み敷いて、ヤル気満々な、下半身に直結するようなキスを仕掛けた。

酒臭さをあまり感じないのは、ボクも相当に呑んでいるせいだ。

「ん、んんっ」

意識が朦朧としているのに突然本気でくちづけられて、苦しげな声を出した先輩の右脚をボクの肩にかけさせ、膝を割り込み体を密着させた。

服越しにとはいえ、お互いの局部を合わせ圧迫するような姿勢でさらに腰を抱きこみ乳首を乱暴に押さえたら、先輩の体がぶるりと震えた。

そして、挿入ってないのに、まるで挿入っているかのように何度か腰を動かすと、「ふっ、あっ」と甘い息を洩らして、ボクの腕にすがりついてきた。

その姿が可愛くて、視覚的に満足したボクは、後ろ手に服の上から先輩の尻の間を指で刺激し始めた。

「あ、…っ!」

最初の刺激でびくんと跳ねた体を押さえて、反応を見ながら、指を動かす。

酔っているからか、先輩は素直だ。

優しい動きに目を閉じている先輩に意地悪したくて、少し乱暴にぐいとねじ込んだら、「や、だ!」と体を強張らせて甘い抗議の声を上げた。

かわいい。かわいいなぁ。

でも、この人、ボクより歳食ってるくせに、ボクより遥かに元気だ……。

イマイチ反応の鈍いボクのそれに比べ、先輩のそれは布越しにもギンギンに硬くなっているのがわかる。

「何だか、タチ役としては、複雑…なんですけど……」

衣服を掻き分けて尻の中の粘膜に直接触れてみたら、酔っているせいかいつもより熱かった。

焦らずに順を追って指にまとわりつく締め付けを広げている間中、カカシ先輩は感じまくって甘い息と喘ぎを洩らし続けた。

その声が腰にずんとくる。

急激に挿入れたい衝動の波が押し寄せてくる。

先輩の尻を弄りながら、ボクは押し付けている腰をゆるく揺らした。

ボクに雁字搦めに拘束されている窮屈な姿勢で、カカシ先輩は焦れたように何度も何度も身を捩り、「頂戴。もっと、奥…。に、頂戴…」と、息を乱しながら強請って喘いだ。

でも酔っていて知覚が鈍っているのだろう。先輩の手はボクの硬く尖り始めたそれを探り当てることができず、臍と腹の辺りをもどかしげに何度も往復した。

「……」

「せんぱい…」

挿入れてもらえないのがそんなに哀しいのか、しばらくしゅんとしていた先輩は、もう中途半端な状況に耐え切れなくなったのだろう。ボクのものを探すのをやめ、自分の手で前を慰め始めた。

「ん…、あっ…あっぁ……」

自分ひとりで気持ちよくなる先輩を視姦するのもいいけれど、ボクもナカに入りたくなっていたから、木遁で先輩の両腕を縛り上げて、自分で弄れないようにした。

「ヤダ…何する、の…」

頭の上で縛られた手を何とか振りほどこうと腹に力を込めていた先輩は、入り口に先端をあてられたら急に大人しくなった。

先ほどまでボクの指をくわえ込んで緩んだ穴が、押し当てられた先端に早く馴染みたいと、ひくりと動く。

「……」

目を閉じてボクが入ってくるのを待っている、その表情もかわいい。

「ねぇ、先輩。入ってもいいですか」

「…ん」

ゆっくりと先輩の中に沈めるように入って、ぴったりくっついた体を抱きしめた。「ああぁ」と啼き奥まで犯されてぶるぶるとしていた先輩の体の震えが静まるのを待って、きゅうきゅうと熱く絡みつく気持ちのいいナカに、ゆっくりと出し入れを始めた。

「は、ぁ、あぁ…ん、あっ…」

先輩、すごい、気持ちよさそう…。

もう必要の無くなった両腕の拘束を解いてやると、すぐにボクの首にまわして体ごとすがりついてきた。

愛しい気持ちで腰を揺らして、酔っている先輩を優しく啼かせた。

しつけのつもりだったんだけどなぁ。

「テンゾウの言うこときいて、もうワガママ言わないから」

そんな風に言わせるつもりだったんだけどな。かわいくて、つい優しくしてしまっている。

「ねぇ、先輩」

「……ぁっ、あ、ん、あ…っ」

「そんなにいいの?」

「…うん。いっ、イイ…よ…」

「ホントは、ごめんなさいって言わせてやろうと思ってたのに。先輩が、ボクを強請って欲しがるから」

「…ごめ、ん…なさい…?」

鸚鵡返しの言葉が可愛くて、穏やかな腰の振りを変えて急に強引に三度ほど突き上げたら、息を詰めて先輩は突然射精した。

二人の密着した腹と、そしてボクの顔にも先輩の精液が飛んできて、思わず興奮して笑みがこぼれる。

「先輩。ボクより先にイったね?」

くたり、と力を失った先輩の体を抱きしめて、最初の絶頂で昂ぶりきった熱を落ち着かせるため、そのままの姿勢でしばらく待った。

長く責めるつもりでいるから、二度目三度目は、文字通り苦しいかもしれない。

「先輩、寝ないで」

「……」

「先輩」

返事をしない先輩にくちづける。

半分意識が無いくせに、ちゅ、と唇を吸い返してくるのがいじらしい。

「大体、ボクが何でも許してくれると思ったら、大間違いなんですよ。しつけ、ちゃんとされてないでしょう先輩は。ボクが自分のわがままをきいてくれるの、当たり前だと思ってるし、ね」

すーっと眠りの世界に入っていこうとしている先輩の体を、少しずつ、またボクの感覚に合わせて揺らしていく。

「ふ。んっ、…う……ぅ……」

抱き上げて座位の姿勢を取り、ぶらりと力なく落ちた腕をボクの太腿の上に乗せた。つかんでいるのかいないのか、そんな曖昧な力しか入ってない指が愛しい。

ホントは後ろから貫く方が動きやすいんだけど、一瞬でも先輩の中から出て行きたくなかったから、ゆっくりと深く繋がった先輩の奥の方を抉る。

「ねぇ、先輩。誰にされてるのか、ちゃんとわかってるの」

「…く、…ん。ぁ、…?」

「先輩。ナカに挿入ってるの、これ、誰のだかわかってるの」

「あっ、あっ、ああぁ、あっ!」

あまり大きくない動きなのに、射精感を覚えてそうな先輩の様子を察して腰を止めた。

「あ、イヤ!」

中断されてしまった快楽を追って、自分で腰を振ろうとする体を肩を押さえつけた。

「ねぇ、酔ってたら、ボクじゃなくても、こんな風になっちゃうの」

「! んんっ!」

「く」

突然キツく締め付けてきたから、予期せずボクも一回目が出た。

腰を揺らしたら、残滓を搾り取ろうと先輩のナカがぎゅうぎゅうと蠢いた。

ボクだけイって取り残すのは可哀想だったので、強めに何度か揺すぶったら、先輩も「あっ!」と叫んでまた果てた。

ハァハァと息が乱れている。先輩もボクも。

繋がっている部分が、心なしか少し柔らかくなる。

ボクの吐き出したものでどろどろになった先輩の内部を思うと愛しくなって、その背中を抱きしめ、肩に顔を埋めた時、不安に怯えたような声が聞こえた。

「誰…なの? テンゾ、じゃないなら、だ、誰…?」

「……」

甘やかだった空気を引き裂いて、殺気が洩れた。

抱きしめていた先輩を押し倒すと、驚いた顔の先輩がボクを見上げていた。

「わかってなかったの。先輩」

「うっ、嘘だよ。違うよ。テンゾウだって、ちゃんとわかってた…よ」

「……」

「テンゾウ! 本当だから。……あ!」

その後は、もう、感情のままに滅茶苦茶に犯した。

「あっあ、ごめんなさ…ごめんなさい。テンゾウ…」

「気持ちいいの先輩」

「ごめんなさい。ごめんなさい」

イきっぱなしの先輩は、過ぎた刺激から逃れたいのか、ボクの問いかけも碌に理解できないまま、さっきからそればかりを繰り返している。

「ふっ、うっ…う、テンゾォ…」

涙で顔をぐしゃぐしゃにして、泣きじゃくる先輩の姿は、素面なら到底考えられない。

何でこんなに弱い姿。

持ってたならちゃんと見せてくれないと、先輩を勘違いしてしまって困るじゃないか。

「ごめんなさいぃテンゾウ」

「せんぱい……」

「やだ。テンゾォ。俺のこと、嫌いにならないで……」

ちょっと、酔ってるからって、何、言って……!

「ん!? んーっ…っ! テンゾウ!…ッ」

そのセリフを聞いた瞬間、がくがくに自分のためだけに腰を使って、イって、しまった。

……くそっ。

もっと責めたかったのに。

萎えてしまう前にまだ硬度を保っているソレでナカを、そして先輩のものを握って本気で同時に擦り上げた。

「あああっ。テンゾウ!テンゾウ!」

まずいでしょう。この誘惑は。

また酔わせたくなったら。毎回こんな風に犯されたら、先輩どうする気なんですか。

酔って訳わかんなくなってごめんなさいする先輩は、最強だ……。

ボクは、もう、近年稀に見るほどに精液でべとべとになったシーツの中で眠る先輩にくちづけて、酒のせいでなく赤面する顔を覆いながら、自己嫌悪にも似た奇妙な感情に苦笑いを洩らした。

まいった。




【終】