接・触




アカデミー前。忍び御用達の食堂で、カカシは同僚と入ってきたイルカに挨拶をした。

「どうも。イルカ先生」

「こんにちは。カカシさん。今日は一人ですか」

「まーね」

カカシがつついている秋刀魚は既にほとんど骨だけになっている。

食後の茶をすすっている頃に、イルカと同僚らしき中忍はトレイを手にカカシの方に歩いてきた。

席はちらほら空きが出ている。

がたん、と正面に座ったイルカを、カカシは眠たげな目で見た。

知らない人間と向かい合うよりは、顔見知りのカカシを選んだのだろうか。ぼんやりしていたら、イルカがカカシの皿を見て言った。

「質素ですね」

「はぁ。まぁ。イルカ先生こそ、いつも麺類なんですね」

「ええ。食べるのが面倒くさくないし、好きなので」

「俺は面倒くさくても魚好きですけどね」

「そうですか」

にこり、と笑って、イルカは麺をすすり始めた。

無骨な指のくせに、意外と綺麗な箸使いだった。するすると麺がその唇に入っていく様を見て、思わずカカシはつぶやいた。

「イルカ先生っていつ見ても健全ですね」

食べ方ひとつとっても妖艶なくノ一達を日頃見慣れているせいだろうか。

性的な匂いの欠片もないイルカの唇を、物珍しいものでも見るかのようにカカシは見つめていた。

つるん、とうどんの端がイルカの唇に入っていく。

見ていたらその形がわずかにほころんだ。

「それって性欲なさそうって意味ですか」

「あ、いや。そういう意味ではない、んですが」

変なことを言った。曖昧な笑顔でカカシを席を立とうとした時、イルカがカタンと箸を置いた。

「でも、俺、大好きな人には欲情しますよ」

「え」

「例えば、ベストの端から手を入れながら抱き寄せて」

「・・・・・・」

「でも決して肌には触れないで、触れてもいいかと訊いて」

「おい、イルカ」

焦ったイルカの同僚の制止の声が差し挟まれた。だが、イルカはやめなかった。

「あなたの手は、俺の肩に」

「・・・・・・」

「好きで好きで自分でもどうしょうもないから、何度も好きだとささやいて」

「・・・・・・」

「あなたを欲しがる俺の気持ちに反応したそこを、形を覚えるほどなめて、震えが来るほど欲しがらせたい。俺を」

心の動揺が現れたような音を立てて、カカシはトレイを持って立ち上がった。

イルカはそんなカカシを執拗に見つめている。

「戸惑う表情を見るのも好きですよ。今のカカシさんみたいに」

彼の面前で呼吸するのも苦しくなって、カカシは無言でイルカの前から足早に離れた。

熱に浮かされたように、身体が熱くなっていた。健全な笑顔が似合う人の不意打ちに、心臓が激しく動揺している。

だが、一刻も早くその場を立ち去りたいカカシに、さらにイルカは追い討ちをかけた。

「・・・あー。カカシさんとヤりてぇ」

「おい。お前、さっきから何言ってるんだよ。聞こえるぞ」

「うん。わかってるよ」

カカシは取り落としそうになったトレイを、再び力をこめて持ち直した。




【終】